「マーケター」という言葉を聞いて、どんな人を思い浮かべますか?
WEB広告の運用ができる人、SEOが得意な人、MAのシナリオ構築が得意な人…少し考えただけでもたくさんの専門家がイメージできます。
では、自社に必要なマーケターはどんな人でしょうか。競合他社がWEB広告の運用をやっていた場合、自社にもWEB広告を運用できる人を入れれば、それで解決するのでしょうか。
これは、一概にYesと言い切れないところがあるんです…。
「マーケター」という言葉には複合的な要素があります。捉え方によっては要件定義を外してしまい、施策を失敗する原因になることもあります。
本記事では、この「マーケター」という言葉がいかに複雑なものかを紐解いていくとともに、自社に必要なマーケターがどんな人かをイメージする一助となれればと考えております。
<プロフィール>
新卒で経営コンサルタントとして、中期経営計画策定、新規事業推進、全社生産性向上などのプロジェクトを実施。その後、成功報酬制インターネット広告代理店でWEB広告まわりの新規事業立ち上げ、商品開発、広告運用に従事する傍ら、自身でアフィリエイト(SEO)の収益化も実施。現在は独立して企業のマーケティングを合格点に持っていくためのソリューションを提供。
マーケティング人材は5分類にわけて考える
私の経験則上、「マーケティング人材」と言われると5分類を思い浮かべ、どの分類に該当する方なのかをすり合わせるところから始まります。
マーケティングに詳しくない企業のイメージしている「マーケティング人材」と、マーケティングに関わる人が考えるそれは、ギャップが大きいためです。
①:経営KPIとマーケティングの接続ができる
②:事業(ビジネスモデル)理解からマーケティングにつなげられる
③:マーケティング戦略を設計できる
④:マーケティング施策の実行ができる
⑤:マーケティング施策の評価ができる
具体的に言うと、企業側が④くらいのイメージで「いい人いない?」と言われて紹介すると、実際は②や③を求めているケースが多いです。
また、④だけをイメージしていたとしても、
「いい人いない?(LPOも広告運用もできて、オウンドメディアやSNSを使ったコンテンツマーケもできて、MAツールのシナリオ構築もやって、解析もできる人)」
みたいなニュアンスのことがあります。このレベルの超人がいたら、自分で事業やりますよね…。
①ができるから偉い!④の一部しかできないから大したことない!みたいなことはまったくないのですが、
「①は当然できるものだと思っていたら、④しかできない人材だったのでハズレだった…」
みたいなことが起こるのはそもそも採用側の要件定義ミスです。本記事を通じてこういった理解のギャップやミスマッチを減らしていければと考えております。
①:経営KPIとマーケティングの接続ができる
いわゆる売上改善・利益改善のような経営KPIから逆算して、何のマーケティングを、どれくらいの予算をかけて、どの優先順位で実行するかを考えるのはもう当たり前。
マーケティングの成果改善のために、
・商品やサービス設計をどのように改善するのか
・インサイドセールスにどのレベルで引き渡すことで成約率が上げられるのか
など、マーケティングの前後工程も踏まえた目線で全体最適が取れるレベルの方がこちらになります。
主に経営サイド経験者や、経営コンサルタントが得意とする領域ですね。残念ながら、市場にはほとんど現れないので見つけられたら予算を多少積んでもパートナーになっておくべきでしょう。
注意する必要があるのは、このレベルにある方が、必ずしもマーケティング施策に精通しているわけではないということです。
マーケティング施策は日々サービス改善が進んでおり、2~3ヶ月に1回は何らかのアルゴリズムが変わっています。ですので2年も現場を離れると、「数字はわかるが施策は時代遅れ」みたいなことが起こります。
高いお金を積んだのに施策やらせてみたらいまいちだった…みたいなことが起こらないように気をつけましょう。
・経営数値に理解がある
・マーケティングの前後工程(業務フロー)にも理解があり、改善案が出せる
・ファイナンス事情にも詳しい
・現場経験から離れていると、施策実行で成果が出せないケースもよくある
→現場経験者なのか、下請け任せの人なのかは判断が必要
②:事業(ビジネスモデル)理解からマーケティングにつなげられる
経営KPIやマーケティングの前後工程までは詳しくないが、事業理解や顧客理解に強く、精度の高いマーケティングができるレベルの方はこちらになります。
職業で言うと、「リサーチャー」「UXリサーチャー」「プロダクトオーナー」あたりを経験している方は、この領域に強いイメージです。
残念ながら、これらの職域もそこまで普及が進んでいないため、タイプ①ほどではありませんが出会える確率は高くありません。
リサーチャー能力は経営コンサルタント職に含まれていたり、UXリサーチャーはUXデザイナーやCDOが兼務していたり、データサイエンティスト能力はアナリストが持っていたりするので、周辺領域の経験が生きてくるケースは十分あります。
マーケティングの本質論を検討できるという意味では①同様なのですが、やはり必ずしもマーケティング施策まで精通しているわけではないです。
また、この中でも顧客理解に強いタイプとデータドリブンに強いタイプがいるため、自社にとってどちらが合うのかを見極める必要があります。
・事業理解・顧客理解(人間理解)に強い
→社会心理学や行動経済学、脳科学に詳しい傾向がある
・細かい施策よりも本質論に迫れるので、世の中の技術が増えても要不要を判断できる
・現場経験から離れているケースもあるが、タイプ①よりも現場経験が多い傾向がある
・顧客理解タイプとデータドリブンタイプがいる
③:マーケティング戦略を設計できる
降りてきたKPIや予算をマーケティング指標に分解して、マーケティング文脈で成果を出すための基本設計ができるレベルの方はこちらになります。
「広告代理店や事業会社マーケティング部の役職者レベル」「フリーランスのマーケティングコンサルタント」あたりを経験していると、戦略設計に精通している可能性が高いです。
よく耳にする「3C」「STP」「4P」「SWOT」などのマーケティングフレームワークも使いこなせるようなイメージですね。
ここまで来るとそこそこ市場にいるかと思いきや、意外と多くもない印象です。
特に広告代理店の役職者で言うと、事業部ごとに取扱商材が分かれているケースが多く、「無数にあるマーケティング施策をどのように組み合わせて成果を出そう」というお仕事にはならないため、全体設計には強くない、ということも珍しくはありません。
(裏で必死に詳しい方を探して、無難な設計を出してくるケースはあります)
また、タイプ①の項目で述べたとおり、各施策はアルゴリズムやルール変動もよく起こるので、あらゆる施策の内部事情まで理解し、適切に戦略に落とし込める方は稀です。
よくマーケティングの施策経験がない経営コンサルティング会社がこの領域に入ってきますが、プログラミング経験がない方にシステム構築のマネージャーをやらせるようなものなので、避けた方が良いでしょう。
タイプ①とタイプ②に関しては必須能力を知っていれば、できるできないの判断は容易ですが、このタイプ③に関しては需要が多い割にミスマッチもよく起こる、難しい領域と認識しています。
そのため、マーケティングに詳しい方が内部にいない場合は、このあたりができるプロに任せるか、セカンドオピニオンを置いて内部と伴走してもらうと失敗リスクを抑えられるかもしれません。
直近で取り組むべき施策がある程度絞られている場合は、その分野に精通している方を採用することが大事です。
・マーケティング文脈での全体最適に強い
・施策に精通していないと戦略が立てづらいので、市場に多いわけではない
・需要が多い割にミスマッチも多い、最も判断が難しいレベル
・任せるマーケティング領域が広い場合は、戦略のプロに依頼するのが確実
④:マーケティング施策の実行ができる
戦略策定やマネジメントの経験は少ないが、リスティング広告、LPO、SEO設計など、何らかのマーケティング施策に関わったことがある方はこちらになります。
何も条件を定めずに「マーケティング職募集」と言うと、この層が最も多く集まります。
しかし、この中でも更に専門分化してくるので、マーケターが持っている技術と企業の属性や課題がフィットしないと、失敗につながる可能性があります。
マーケターを見るときにまず注意すべきは、オフラインに強いのかオンラインに強いのかです。オンラインマーケとオフラインマーケはまったく別物と言っても過言ではありません。
次に、どのような文脈でマーケティングを実施してきたのかです。事業会社なのか支援会社なのか、BtoCなのかBtoBなのか。BtoCの中でもECなのかサービス業なのか。その中でも特に認知やリード獲得に強いのか、反響に強いのか、再来獲得に強いのか。
特に、BtoCかBtoBかによって取れる施策や許容できるコスト感は大きく変わってきます。
マーケターとひとくくりにしていろいろな施策をひとまとめに任せるのは危険をはらんでいます。以下では、主にデジタルマーケティングの文脈においてよく求められるスキルセットを記載します。
・コンテンツマーケティング
・SNS運用
・インフルエンサー活用
・テクニカルSEO
・被リンク獲得SEO
・プレスリリース・広報
・リスティング広告
・ディスプレイ広告
・SNS広告
・DSP
・アフィリエイト広告
・純広告
etc…
・サイト設計(CTA設計含む)
・CRO(LPOやEFO)
・UI/UX改善
・ホワイトペーパー
・事例集(インタビュー)
・チャットボット
etc…
・マーケティングオートメーション
・メルマガ
・LINE公式(ステップツール含む)
・オンラインコミュニティ活用
・カスタマーサクセス
etc…
これらすべての施策に精通している人は、市場にほぼいないと言っても過言ではないでしょう。
自社の業種業態や立ち位置に合った戦略をしっかり持った上で戦略に合う施策を選別し、その施策ができる方にピンポイントで相談することが大事です。
⑤:マーケティング施策の評価ができる
マーケティング施策の効果を主に定量で評価し、改善PDCAを回せるレベルの方はこちらになります。
職業で言うと「アナリスト(解析士)」「データサイエンティスト」あたりを経験している方は、この領域に強いです。
タイプ⑤はこれまでの①~④とは毛色が違い、データベース(SQLなど)の知識やプログラミング(GASなど)の知識、場合によっては統計学やビッグデータ解析の知識を持っている、理系寄りの仕事になります。
WEBからの反響が月間100件もない場合は一般的なアナリティクスの知識だけで事足りますが、月間数百以上の反響がある場合や、顧客データがしっかり取れる企業の場合は専任の分析官をパートナーにすると良いでしょう。
主に全国規模で展開しているECショップを持つ事業会社のマーケティング部にいた方などは、マーケティングの施策評価に長けている可能性があります。
マーケターなら誰もが知っている「確率思考の戦略論」という書籍がありますが、データ分析と予測モデルを使ってUSJを人気テーマパークにした過程が書かれているので、イメージがつきやすいかもしれません。
対象企業は絞られますし、ニーズもはっきりしているので、タイプ⑤でミスマッチが起こることはあまりない印象です。
・定量分析や、分析ツールを用いた考察に強い
・データベースやプログラミングの知識を駆使して分析するケースもある
・アクセス数や反響数が飛び抜けている企業であればあるほど需要が強くなる
補足:マーケティング施策を実現するクリエイターという職業
タイプ①~⑤と厳密に異なる部分もあるため触れませんでしたが、マーケティング施策の実現はクリエイターさんたちの活躍抜きでは語れません。
マーケターの中にはクリエイターからキャリアをスタートさせて、結果的にマーケティングスキルを手に入れている方もいます。
そういった方のほとんどは実務能力に長けているので、実は企業が欲しがっている層はこれからお伝えする方々かもしれません。
クリエイター①:「言葉」に強いクリエイター
主に、コピーライティングやセールスライティング、SEOライティングやおもしろコンテンツライティングのような、言葉を使って成果を上げるクリエイターです。
最近はTwitterやnoteなども一般化し、文章を公に出す機会が創出されてきているので、ライティングができる方は増えている印象です。
コピーライティングだけ少し毛色は違いますが、その他はこれまで培ってきたライティング技術が転用しやすいので、SEOライティングに強い方を広報として活躍させる、なども通用しやすい印象です。
クリエイター②:「視覚的表現」に強いクリエイター
主に、デザインや動画、VRなどの視覚的制作物を用いて成果を上げるクリエイターです。
最近はCanvaのような汎用デザインツールやCapCutやVYONDのような動画制作アプリが普及し、昔は一部しか触れなかった技術が一般化してきています。
しかし、視覚的表現は突き詰めれば突き詰めるほど、一朝一夕では難しいプロの技術が効いてくる世界です。
言われたものを作ることができるレベルのクリエイターは多くいますが、クリエイティブの1つ1つに根拠を持ち、マーケティング観点での狙いを正確に反映できる方は多くはいません。
視覚的表現に強いクリエイターに関しては、過去のアウトプットでどこからどこまで関わったのかなど、目利きをしないとミスマッチが起こってしまう可能性は十分あるでしょう。
クリエイター③:「プログラム」に強いクリエイター
WEB戦略をWEBサイト抜きに語ることはできません。そのWEBサイトを制作し、サイトによって成果を上げるのがプログラマーなどのクリエイターです。
最近は「WEBデザイナー」と言うと、「プログラミングも含めてデザインを落とし込める人」と定義される企業もあるくらいですね。
WEBマーケターを探していると言っているのに、詳しく聞いてみるとデザインディレクションができてデザインカンプも作れてそれをLPにコーディングできる…みたいなことを求められていたりもします。
上記のように反響に強いLPが書ける方もいれば、SEOに強く、Googleのクロールボットに読み込まれやすいコーディングを実装できる方もおり、実はマーケティングとプログラミングは密接に結びついている部分もあります。
マーケティング施策としてのプログラミングをどれくらい経験しているかによって、コミュニケーションスピードが圧倒的に変わってくるでしょう。
マーケターのスキルセットを理解し、採用ミスマッチを極小化しよう
マーケターのスキルセットについて、5分類+αをお伝えしてきました。
自社に必要なマーケティング人材の要件を正しく定義できれば、本当に必要なのは例えばタイプ②なのかタイプ④なのかが絞り込め、採用難易度がぐっと下がるかもしれません。
ただし、タイプ①やタイプ②は市場にほとんどいないため、フリーランスや「レンタルCMO」など、外部人材を上手く活用することをおすすめします。
自社に合ったマーケティングフォーメーションを組み、内製化できるところは内製化を、内製化が難しい部分は外部の力を使ってスピーディーにサービスを育てましょう。