従来のマーケティング手法に「マスマーケティング(マーケティング1.0)」という手法がありました。この手法は大量生産、大量消費時代にはマッチした手法でした。

しかし、価値観やライフスタイルが多様化してきた昨今においては、すべての人をターゲットにして、闇雲にプロモーションすることは得策ではありません。

そこで、登場したのがマーケティング論の権威者であるフィリップ・コトラーが提唱した「顧客志向のマーケティング(マーケティング2.0)」と呼ばれるものです。

あなたの商品・サービスは、誰がターゲットなのか、もしくは誰がターゲットではないのかを定義し、ターゲットに対してどのようなポジショニングをするべきなのかを明確にする必要があります。

そして、自社の立ち位置と顧客ターゲットを明確にする手法として、コトラーが提唱したフレームワークが今回ご紹介するSTPです。

STPとは

STPとは、

STPの3つの要素

Segmentation(市場細分化)
Targeting(ターゲット設定)
Positioning(ポジショニング設定

の頭文字です。
STP分析では、Segmentation(市場細分化)で市場の全体像を把握し、Targeting(ターゲット設定)でその中から狙うべき市場を決定し、Positioning(ポジショニング設定)で競合他社との位置関係を決定します。

S:セグメンテーション

セグメンテーションは、「市場の細分化」の意味です。

まずは、特定の軸で市場を分解していくつかのグループを作る

バラバラと様々な人がいるなかで、特定の軸に沿ってグルーピングしていく作業になります。

セグメンテーションの切り方の軸としては以下のような軸があります。

セグメンテーションを切る4つの軸

・人口動態変数(年齢、性別、家族構成、職業)
・地理変数学(地域、人口密度、住まい、文化、行動範囲)
・社会心理学的変数(ライフスタイル、価値観、パーソナリティ、購買動機)
・行動的変数(購買活動、購買心理、購買契機)

中でも最もイメージしやすいのが人口動態変数でしょう。
年齢なら、例えば「10代から20代」「30代から40代」「50代以上」という分け方ができるでしょう。また、性別で区切れば「男性」「女性」「その他」というグループになるでしょう。

地理変数は、エリアビジネスを行う時に重要です。商圏人口で「10万人〜30万人」「30万人〜50万人」「50万人〜」などと分けることができます。

また、すこし難しいですが、社会心理学的変数では、顧客の価値観などでセグメントします。
「社交的」「外交的」「革新的」「保守的」などで分けていきます。

各グループの中から代表的な人物像として「ペルソナ」を設定する

また、セグメンテーションしたそれぞれのグループの中に属する典型的な人物像として「ペルソナ」を設定してみましょう。

例えば、セグメンテーションによって、「20代〜30代、女性、主婦」というグループを作ったとしましょう。

ペルソナ設定では、さらに人物をイメージしやすいように、「28歳、木村花子、女性、専業主婦、都内在住、夫(32歳)・長女(4歳)、次女(1歳)の家族構成、カフェやママ友とのランチが趣味、Instagramで料理の作り方の投稿を見る事が多い、使っているSNSはLINEが主、Facebookも趣味の投稿で利用することがある」などというようにさらに深堀りをします。

T:ターゲティング

セグメンテーションによって、いくつかに分解したセグメントの中で、最も魅力的なセグメントを選ぶことがターゲティングです。

セグメンテーションが分けることだとすると、ターゲティングは絞る・選ぶことと言えるでしょう。

市場の魅力度をチェックする

セグメンテーションした市場を評価する方法として6Rという以下のチェック項目があります。

6つのチェック項目

1、Realistic scale(有効な規模)
2、Rate of growth(成長率)
3、Rival(競合)
4、Rank(優先順位)
5、Reach(到達可能性)
6、Response(測定可能性)

この6Rのチェック項目に沿って、どの市場が最も魅力的かどうかをチェックしてみましょう。

Realistic scale(有効な規模)/Rate of growth(成長率)/Rival(競合)で魅力的な市場かどうかを見極める

基本的には、市場規模は大きいほうが良いですが、競合の状況や今後の市場の成長率なども考えたほうが良いでしょう。

ニッチ市場でもエリアを広げることでターゲットとなる市場の規模を増やすことができます。

ターゲティングでは、必ずしも一つのセグメントだけでなく、複数のセグメントを選択しても構いません。その際に、セグメント毎に商品自体を変えても良いですし、同じ商品でもプロモーションの仕方だけを変える場合もあります。

ただし、すべてのセグメントをターゲットにすることは、当然ながら、圧倒的な体力のある企業しか採用できない戦略になります。

そのため、スタートアップや新規事業では、ニッチな市場を選択することで局所戦で優位に事業を進めることもできます。

Rank(優先順位)では、顧客の優先度が高いかどうか?を見極める

顧客の優先度を考える上で、持つべき視点として「ニーズ」と「ウォンツ」があります。
ニーズは目指すべき姿・状態といった「目的」ウォンツはニーズを満たすための「手段」とも言えるでしょう。

例えば、「家事の時間を節約したい」というニーズ(目的)に対して、「食器洗い機がほしい」、「家事代行を頼みたい」、「洗わなくても良い食器が欲しい」などの複数のウォンツ(手段)があります。

また、家事を節約したいというニーズ(目的)は、またさらに上位のニーズ(目的)に対するウォンツ(手段)の場合があります。

例えば、なぜ、「家事の時間を節約したい」のかというと、「家族と過ごす時間を増やしたい」、「子供と過ごす時間を増やしたい」、「とにかく何もせずゴロゴロとしていたい(自分だけの時間を増やしたい)」などといった上位のニーズ(目的)がある可能性があります。

より上位のニーズを深堀りする際に、セグメンテーションで設定した、典型的な人物像である「ペルソナ」の価値観やライフスタイルをイメージすると、深堀りの方向性が見えてくるはずです。

深堀りした際に、ニーズが強烈で必要不可欠なものであればあるほど、そのニーズを満たすことは顧客の優先度が高いものとなるでしょう。

Reach(到達可能性)では、顧客にアプローチできるか?を考える

市場が大きくても顧客にアプローチできなければ仕方がありません。
例えば地理的要因などの理由からターゲット層へ商品を届けるのが難しい場合、あるいは年齢が高い層だと、WEBでのプロモーションがしづらいなどがあります。

市場の規模や、顧客ニーズの高さなどの観点とともに、実際に商品を認知してもらい買ってもらい届けることができるのか?という観点も必要です。


この際も、ペルソナを想定すると、どのような認知手段がありうるかをイメージしやすいでしょう。

Response(測定可能性)を考える

最後に、ターゲティングした市場の測定可能性を考えましょう。マーケティングは単発で行う作業ではなく、継続的に反復的に行う作業です。

そのため、一つのターゲットに対して、複数の施策を試しながら、その効果を検証し、新しい施策を打つというPDCAサイクルを回すことが非常に大切です。

そのためには、マーケティング施策の効果測定が可能かどうか?どのように実現するか?という観点で事前に考えておくと良いでしょう。

P:ポジショニング

ターゲティングした、市場や顧客のセグメントで勝負をしている競合他社に対して、自社がどのような強みをアピールをしていくか、といった特定セグメント内での自社のポジションを明確にすることがポジショニングです。

以下に、2つの事例をご紹介致します。

①:俺のイタリアンの事例

これまで、イタリアンやフレンチなどは高級料理を「高価格帯」「高級感」のある店舗が主流でした。それに対して、俺のイタリアンは高級料理を「低価格帯」「カジュアル」に提供するというセグメントにポジショニングすることで他社との差別化に成功しました。

②:ユニクロの事例

ファッション業界では、プレイヤーが非常に多く、「モテ志向」「自分志向」「フェミニン」「エレガント」「カジュアル」「シンプル」など非常に細かい細分化がされている業界でした。

そこで、ユニクロは、その細分化された市場を逆に大きく捉え直し、「カジュアル」or「フォーマル」、「ベーシック」or「トレンド」の2軸に切りカジュアルかつベーシックというセグメントを狙うことで成功しました。

STPを使いこなして、自社の立ち位置を明確にしよう

どこにいる誰に対して、何を売っていくのか?といったSTPを明確にすることでマーケティング施策に迷いや無駄がなくなります。

また、ピンポイントでターゲット顧客のニーズに対して適切な方法と表現で訴求することができるため、顧客が迷いなく自社の商品を買ってくれることに繋がります。

その他にも、営業マンが自社のサービスを自信を持って売れるようになったりなどといった社内のメリットもあります。

ぜひ、STPを使いこなしてビジネスに活用してみて下さい。